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放浪の達人ブログ

山の温泉

    【山の温泉】

先日、俺は小雨が降る夕暮れ時に奈良県の山間部の露天風呂に入っていた。
その温泉は無色無味無臭だったが湯質がph9.6という強アルカリ性でヌルヌルしていた。
ボディーソープが流し切れてないような感じで肌はしっとりスベスベになった。
青空の下や星空の下で露天風呂に入るのは大変気分の良いものだが、
雨の中で入る露天風呂というのもそれはそれで情緒がある。
小雨の降る中、上半身に雨が当たるので足を伸ばして肩までお湯に浸かったが、
その露天風呂は半分が浅瀬になっていたために
チ●コが水面に沖ノ鳥島状態だったことは割愛しておこう。
奈良のその露天風呂は俺的温泉トップ5にランクインとなった。

このエッセイコーナーでは過去に2度か3度、温泉ネタを執筆しているが
それは「混浴露天風呂」のことや「サウナでおっさんと我慢比べ」ネタであった。
今回は過去に入った露天風呂のナンバー1を紹介しよう。
入浴料なんとたったの10円である。温泉好きの人はぜひ行ってみてくれ。

ネパールのカトマンズからバスで半日走るとポカラという街に着く。
そこから徒歩で5日ほど山道を歩くとタトパニという村がある。
タトは温かい、パニは水という意味だから村の名前がまさしく温泉を意味する。
タトパニには数件の安宿も点在していて世界中のトレッカーがやって来る。
当時、俺が泊まった宿は電気などない岩壁造りの部屋で1泊100円だった。
今でも1泊200円ほどで泊まれるのではないだろうか?
その代わり標高もあるヒマラヤ街道なので食事代の方が高い。
俺はガイドも雇わず地図も持たず事前の情報もほぼ皆無でトレッキングの旅に出た。
フラリと旅をしていて辿り着いたタトパニの石畳の道には目を奪われた。
温泉のあることだけは事前に知っていたので早速入ることにした。
ヒマラヤの雪融け水が流れる川原まで歩いて行くと露天風呂があり、
夕闇迫る川原にはネパールの民族音楽が流され、入浴料10円を払って入った。
温泉の横では湯を使って現地のネパール人が洗濯をしたり食器を洗ったりしていて
村の子供達はジャンプして温泉に飛び込んで親から叱られていたりという光景だった。
露天風呂からヒマラヤの山がチラリと見え、山は夕陽を浴びてピンクに染まった。
空には星がチラホラ見え始め、異国での稀な体験にすっかり感動して泣いた。
温泉に入って泣けたのは人生の中であの時だけである。

俺の温泉の評価基準は湯質よりもロケーションが重要なのだ。
そのネパールのタトパニ村のような露天風呂をいつも探し描いている。
それともうひとつ。夏目漱石の未完の遺作「明暗」に出てくるような、
寂寞たる夢の中にいるような温泉に出会いたいといつも思っている。
俺は設備が整った温泉施設には別に入ろうと思わない。
ジャグジーだとか電気風呂だとか、そんなものは要らないのだ。
地元民が普通に入るような自然をそのまま利用した簡素な露天風呂が良い。
できればロッカーや扇風機や体重計なんてものすら置かれてないような
脱衣をカゴに入れておくだけのような鄙びた露天風呂が良い。
北海道や九州には大自然の中にワイルドな露天風呂があるらしいが
遠いのでなかなか行くことができないのが残念である。

ちなみに俺は温泉だけが目的で出掛けることはしたことがない。
あくまでも登山がメインであって、温泉は下山後のイベントに過ぎない。
穂高周辺のかなりの数の露天風呂に入ったことがあるが、
読者さんの中で「こんな隠れた名湯があるぞ」という人がおられたら
ぜひメールで教えて欲しいものである。


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